浦原 | ナノ
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▼ 藍染編2

現世に成体と思われる破面が出現した。その為に阿散井副隊長や朽木ルキアさんが現世へと派遣されることとなった。戦力となる人間に個人的声をかけているという話は風の噂で聞いていたが、隊務を放置して研究に没頭する人間が多い我が十二番隊の書類を捌いていたら、またもビジュアルが変わった涅隊長が副隊長を連れて隊室へとやってきて、先遣隊の話を振られる。そういう話に涅隊長が興味あるとは思っていなかったのだが。

「みょうじ、行くカネ?」

ギョロリ、と何かを探るような目でわたしを見る涅隊長に大きくため息を吐いた。

「……行きませんよ。わたしが離れたら誰が隊務を回すんですか」

「みょうじ八席の分は、私が」

「副隊長にそんなことさせられません」

フン、と鼻を鳴らした隊長は、興味を失ったように副隊長を引き連れて隊室を出ていった。何を言いたいのかはわかってる。先日の藍染隊長の謀反で、旅禍…現在は死神代行となった黒崎一護一行が、やはりあの人の手引きを受けたことが明らかになった。そう、あの人は、今、空座町にいる。破面が出現したのも空座町の黒崎一護の元である。つまり、今回の先遣隊についていけば、あの人に会う可能性が非常に高いということだ。100年経って、今さら、どうしてみんなして。忘れたいの。忘れられたと思っていたの。わたしはこれからも、関わらない。この100年そうしてきたように、変わらない日常を送る。井上織姫が行方不明になって、先遣隊が戻ってきても、それは変わらなかった。あの人と接触したという話は、聞いている。だけどきっとあの人は、わたしのことなんて気にかけてもいない。わたしがまだここにいること、四楓院隊長から聞いているでしょう。その上で、先遣隊と接触してもわたしのことを聞いたりはしなかった。わたしは誰からも何も言われていない。それが何よりの証拠である。それでも事態は刻々と動いていき、偽の空座町を作る作戦と虚圏への黒崎一護への援護が同時進行することとなった。偽の空座町を作る作戦については、涅隊長とあの人が協力して進めていたらしいが、やはり涅隊長からも何も言われることはなく、そして今、涅隊長と副隊長は黒崎一護の援護のために虚圏へと向かうことになっており、出立の準備を急いでいた。

「オマエは空座町の部隊に同行だヨ」

「隊長ついに頭やっちゃいました?実力者だけしか行けないって聞いてますけど」

「そんなに解剖されたいのなら私もやぶさかでもないのだがネ」

「嘘です嘘ですちょっとした冗談です」

本当に腹の立つ女だヨ、と蔑んだ目を向けられる。八席であるわたしは、当然隊長や副隊長に混ざって戦うことなんてできない。しかし我が十二番隊の技術が役に立つ場面もあるだろうと、在籍歴が長くて薬品の扱い方がわかり、回道に長け、自分の身がある程度守れるわたしに白羽の矢が立ったとのことだが。それなら阿近でいいのではないだろうか。わたしよりよっぽど使えると思う。渋々了承すると、涅隊長は副隊長を呼び付け、用意していたらしい薬品をわたしの前に次々と広げていく。いやどれだけあるんですか。わたしがやることは、基本的に救護だ。激しい戦いになると予想されるので、怪我人が多数出るだろう。四番隊の卯ノ花隊長と虎徹副隊長は虚圏に向かうらしいので、なるべく邪魔にならない安全な場所で控えて、怪我人が出たら結界を張って涅隊長お手製の薬品を飲ませ、回道で応急処置をする。それだけでいいはずなのにこの量の薬品。使用用途をひとつひとつ覚えるのが大変だから断りたいところではあるが、残念ながらほとんど知っていた。伊達に100年もこの人の下で働いてはいない。今回の任がわたしでなければならない理由も、それが大きいのだろう。涅隊長たちを見送って、渡された薬品を全て持つ。そうしてほかの隊長たちと訪れた偽の空座町は、地獄のようだった。まず総隊長が藍染たちを炎で隔離し、残された破面を一体ずつ倒していく手筈だったのだが、空座町を移動させている結界の柱の防衛でまず斑目三席が倒れた。わたしは戦闘の邪魔になるので離れた場所で待機していたが、狛村隊長が斑目三席に代わって破面を倒したのを確認して斑目三席の治療に当たった。しかし斑目三席の治療中にも、松本副隊長と、あとから駆けつけた雛森副隊長が瀕死の重傷を負ったのを確認し、そのすぐ後に檜佐木副隊長や射場副隊長も倒れていく。吉良副隊長がそちらの治療に当たっているが、到底手が足りない。

「おいみょうじ、オレはもういい……あっち手伝ってやれ」

「………はい。ですが、斑目三席もまだ回復しきったわけではありません。できるだけ安静にしていてください」

本当に、繋ぎしか出来ていない。涅隊長の薬をもってしても即回復ができないほどに、損傷しているのだ。だけどそれを悔いている時間もない。戦闘に巻き込まれないルートを選んで瞬歩で吉良副隊長の元へと向かう。副隊長たちを次々と倒した相手は、総隊長が手ずから始末したらしい。吉良副隊長、と声をかけると、腹を抉られた松本副隊長の治療をしている吉良副隊長から雛森副隊長の治療をするように指示される。確かにこの中で松本副隊長の次に危ないのは雛森副隊長だけど、檜佐木副隊長と射場副隊長だって放っておいたらどうなるかわからない。吉良副隊長と手分けしても命を繋ぐのでギリギリだった。狛村隊長に護衛されながらも、こんなことならわたしも隊長について虚圏に行きたかった、と口には出さず心の中だけで毒づく。ついに京楽隊長や浮竹隊長も倒れ、総隊長の火の檻が吹き消されたことによって藍染たちが姿を現し、いよいよ絶体絶命かと思われたその時。

「待てや」

100年ぶりに聞く、声がした。そうして現れた8人。その中にはわたしの大切な親友の姿もあった。

「……ひよ里、」

無事だった。生きてた。変わらないツインテールに小さい姿に大きな態度。そのくせ繊細で傷つきやすくて、それでも誰よりも優しいことを、わたしは知っている。あの人を好きになったきっかけだって、仲良くなれたきっかけだって、全部ひよ里だった。

「久しぶりのご対面や。十三隊ん中にアイサツしときたい相手がおる奴いてるか?」

「いてへん!」

即答で否定したひよ里に、胸が抉られるような感覚がする。ほら、どれだけ仲良くたって、どれだけ一緒にいたって、100年もあればどうでもよくなってしまう。わたしのことなんて、もう。重傷を負っている雛森副隊長や松本副隊長を吉良副隊長に任せ、浮竹隊長の治療をしながら彼らの様子をうかがう。現世の服を着ていて、昔とは霊圧が異なっているように感じる。敵の敵は味方、と言って共闘を始めた彼らは、隊長たちが苦戦していた破面を多少苦戦しながらも撃破していく。しかし、藍染と市丸、東仙が出てくると、話が変わる。最初に、藍染の挑発に耐えられなかったひよ里が、市丸に斬られて地に落ちる。確実に、致命傷だった。涅隊長の薬をもってしても、わたしでは多少の延命措置しかできない。平子隊長がひよ里の上半身を抱き起こしている。ようやく傷がふさがった浮竹隊長が、行ってあげなさい、とわたしの手を軽く叩いた。それに頭を下げて、瀕死の重傷を負ったひよ里に駆け寄った。

「ひよ里!」

「オマエ…なまえか!なんでこんなとこにおんねん!」

「わたしが…わたしが繋ぎます。だから、平子隊長は…!」

片手を失った有昭田副鬼道長のサポートのもと、ひよ里に薬を飲ませ、わたしができるすべてを出し切って回道を施す。恩にきる、と再び藍染に向かっていった平子隊長に視線を送る余裕もない。ひよ里、ひよ里。せっかく会えたのに、こんなところで死んじゃだめだよ。息も絶え絶えなひよ里が、何かを言おうと口を開く。やめて。後で聞くから、今は余計な体力を使わないで。

「……忘れてたわけと、ちゃうねんで」

「だめ、ひよ里、大丈夫だから、絶対助けるから、」

「なんも言わんと置いてったこと、うらんどるやろ」

恨んでないと言ったら、きっと嘘になるだろう。あの人と同じタイミングでいなくなった親友は、きっとあの人と一緒にいるのだろうと思っていた。みんないなくなってしまったあの日、浦原隊長のおつかいに出て危険に巻き込まれてしまったひよ里を心配して珍しく表情を崩している隊長を見ていたから。わたしが、ひよ里を助けてと、あの人に、頼んだのだから。だけど、どうしてわたしだけ連れて行ってくれなかったの。どうしようもない理由があることなんて考えなくてもわかるのにそう思わずにいられなかった。

「それでも、わたしがひよ里のこと大好きなのは、100年ずっと変わらなかったよ…!」

恨んでも、憎んでも、ずっとずっと根底にあるものは変わらない。大好きで大切な親友。どあほ、と小さな声で呟いて、ひよ里が目を閉じる。嫌だ、やめて。その時、替わってください、と柔らかな声とともに、強張ったわたしの肩に優しく手が乗せられる。


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